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京教大から世界へ!②~2023パリ世界パラ陸上日本代表 三本木優也さん(数学領域専攻4回生(2023年当時))~
パラ陸上競技のカテゴリーについて
I:今回出場された「T47」というカテゴリーとはどのようなものでしょうか。
このことが、世の中というか、世界中にというか、僕が周りに一番伝えたいところです。
僕が出場した「T47」というカテゴリーは、T47/T46/T45という3つのクラスの選手が、1つのカテゴリーに集められてメダルを争います。
別の障がいのクラス(例えば視覚障がい)では、T11は全盲の選手、T12は全盲よりもう少し障がいの軽い選手、T13は視覚障がいが比較的軽い選手とクラス分けされ、それぞれが別々のカテゴリーでメダルを争います。 それに対して、僕たちはT47/T46/T45の3つのクラスがまとめられて、一緒に1つのメダルを争うというところに違いがあり、このように複数のクラスが集まって争わなくてはいけないカテゴリーはなかなかないと思います。
僕の、両腕が後ろに引けないという障がいはT45クラスで、上肢障がいの中で最も障がいの重いクラスです。T46、47は片腕のみの障がいで、例えば肘より先がない人はT47、片腕全部が動きにくいという人はT46というようにクラス分けされますが、その3つのクラスで一緒に争わなくてはなりません。
僕が出場したパリのT47のカテゴリーの中で、T45というクラスで出ていたのは男女合わせても僕だけでしたし、端から見れば、「ちょっと不利なんじゃない?」と言われることもあったりしますが、そういうカテゴリーなんです。K:標準記録自体は、どちらかというとT47、障がいの軽いクラス寄りに?
そうです。T47寄りの記録になっています。実は世界記録はT47とT46で1つの世界記録があって、T45で別の世界記録があります。記録は別ですけれど、標準記録は一緒で、レースとメダルも一緒です。
I:今もご説明いただきましたが、T45というのは、三本木さんの場合、両腕の障がいということでしょうか。
はい、両腕の障がいです。後ろに引けないという障がいがパラ陸上のクラス分けの際に認められています。筋力も他の健常者と比べて弱いのですが、それよりも後ろに引けないというのが一番のハンディキャップです。
世界で勝負する走りの理想像を目指して
I:昨年度は関西学生陸上競技対校選手権(関西インカレ)に出場され、非公認ながらパラ世界記録(10秒94)を超える10秒90というタイムを出されていますが、このように一般の競技会にも出場されているのでしょうか?
はい、そうです。
I:障がいがある中でのご自身の走りの理想像と、健常者の走りの理想像というのは違ってくると思いますが、パラアスリートとして実際にご自身が目指す理想をどのように考えておられ、そこへ到達するためにトレーニングでどのような創意工夫をされているのでしょうか。
理想の走りとしては健常者の選手を目標にしています。正直にいうと健常者と同じ走りをするのは不可能に近いこともありますが、どこができなくて、どうすればその動きを補えるかを、練習の中で走る毎に動画を撮り、健常者と自分の走りを比べながら考えて、できるだけ理想と目標に近づけるようにしています。
K:健常者の走りを理想としているという話の中で、どうしても腕振りが健常者と同じようにはできないということであれば、足の動きを注視しようと考えているのでしょうか?
いえ、足の動きは健常者に近いと思うんです。そこは維持しつつ、自分が健常者と一番ずれている上半身の動きをよく考えています。健常者は腕を前後に振りますが、僕は振れないので、そこをどうやって補うか、後ろに引けないのであれば下に振ればいいと最近は考えています。それこそ、下に振れることを生かしていくしかないということで、できないことを健常者と同じようにするのではなくて、そこを補いながらできるだけ近づけるようにしています。
I:健常者の走りに近づけるというところをもう少しお話しいただけますか。
パリ世界パラ陸上に行って、パリで全然歯が立たなかった理由として、ずっと自分の走りを磨いていたからかもしれないと感じています。自分の走りを極めても世界と勝負できないのではないか、世界で勝つために、勝負するためには何か新たに取り組まなくてはならない、それは、健常者との差を縮めて埋めることではないかと。それができれば、パラで世界と勝負ができると考えているので、まずはできるだけ近づけること、でもできないことは絶対僕にはあるので、そこは補うしかないと思っています。
I:具体的にはどのように取り組んでおられるのでしょうか?
先ほども言いましたが、僕の腕は下と前には可動域があるので、動く範囲を最大限活かして腕振りをすることです。腕振りに必要な筋肉を使うには、腕を後ろに引けば一番使えるんですが、僕は引けません。ですが、その筋肉はより下をとおすように腕を振ると使えるようになるので、その動きを活かしていこうとしています。
また、胸より上を動かすことも制限があるので、肩甲骨の辺り、両肩甲骨の間の辺りも意識して、末端ではなくて体の中心部分を使って走るようにしています。I:世界で戦うために「これは負けない」という三本木さんの走りの強みは何でしょうか。
「スタートダッシュ」です。僕の理想として、スタートで先行して逃げ切って勝つというのが自分のパターンだと思っています。僕の両腕の障がいが活きてくるのは、両手をついてスタートできることです。片腕の選手は片手しかつけませんが、自分は両手をつけるので、そこを活かして武器にしていくことが重要だと思っています。
K:腕を下に振るという振り方をした時に、ピッチが落ちたりしませんか?
すごく専門的な話になりますが、走るスピードは、ピッチという回転数とストライドという歩幅の掛け算で決まります。ですが、回転数を高めることには限界があって、今はできるだけ歩数を少なくし、ストライドを伸ばすことを目指しています。今、100mを50歩で走り切っているところを48歩にして、回転数をそのまま維持できれば、絶対にスピードは上がります。 ですので、まずは100mを48歩で走ることを体に覚えさせ、その感覚を掴んでから回転数をあげていければ、さらに前へ進めると思っています。
K:世界大会で決勝に残り、メダルを獲得していくためには、アベレージをどこまで上げる必要があると考えていますか?
今回(パリ世界パラ陸上)の100m予選で、僕は11秒42でした。自己ベストが10秒90で、今シーズンのベストが11秒05ですけれど、今回の決勝ラウンド進出のボーダーラインは11秒16、決勝での3位入賞(メダル獲得ライン)が10秒85なので、決して届かないところではないです。決勝は絶対いけるだろうし、自己ベストぐらいか、それより少し早いタイムで走ればメダル(3位)は獲れる可能性が高いです。そこで今、僕が一番目標にしているのは10秒70です。そのタイムで走れば決勝は絶対いけるだろうし、確実にメダルは獲れると思います。
まずは10秒70ぐらい、悪くて10秒80で安定させ、世界大会で10秒70というのが理想です。この記録であればメダルに届くか届かないかぐらいなので、まずはそこを目標にしています。I:国際大会で、100%の実力を発揮するということはとても大変なことなのでしょうか。
準決勝の記録が一番良くて、決勝では一番記録が悪いっていうのが100mでは普通にあります。決勝で世界記録を出すこと、決勝で自己記録を出してメダルを取るということはものすごいことなので、やっぱり難しいですね。
モチベーションの維持
I:三本木さんは、普段の練習の中でモチベーションのムラなどはありますか? もしモチベーションが低い時があるとしたら、そういう時はどのようにしておられるのでしょうか。
モチベーションが低い時は、正直あります。雨が降っていたり、最近ですとすごく暑かったり、そして怪我をしていたら走れないですし、やる気が出ないという日ももちろん僕にもあります。でも、日本代表になるとか、世界一になりたいという自分の夢があるので、すごく大切にしていることは、どんな日でもずっと夢を見ることです。モチベーションが低い日でも最低限やらないといけないことはありますし、高い時ほどそのまま夢を見続けて。そうですね、ずっと夢を見続けています。あとはモチベーションが低いことを周りに出さないようにしています。「自分はずっとモチベーションが高いんです」というように見せることを心がけています。
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